あっての絨毯やキリム。
西アジアや中央アジアでは、もう何千年も前から羊と人は共に暮らしてきました。
毛を衣服やテントや絨毯などに使うほか、食料としても大切なものでした。
羊は財産だったのです。
羊の頭は"caput"といわれ、今で言う"capital"つまり「資本」の語源なのだそうです。
翻って、東アジアの端の国日本では
正倉院で発見されたフェルトの敷物や秀吉の陣羽織、山鉾飾りとして使われた絨毯など、羊毛を使った製品は1000年以上も前の時代から入ってきていますが、羊が輸入され、本格的に付き合いが始まったのは明治時代に入ってからなのです。
羊
一般的な羊毛について
ラグに使われる
羊毛について
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ウールwool
は保温性が高いことは良く知られていますが、それとは他に湿度を調整する性質も持っています。
例えば寝室にウールの敷物を敷くと、眠っている間に発散される人間の湿気が吸収されますし、
逆に乾燥していると、ウールに含まれている湿気が部屋に放出されるのです。
これはウールの毛の中心部が空洞になっていて、大量の空気を貯めることができるからだそう。
木材もそうですが、ウールも呼吸しているのですね。いつの頃だったでしょうか。『生きている、それがウールなんだ』というCMのがありました。
ウールには室内の空気をきれいにする効果もあります。日中に部屋に舞い上がったほこりが降りるときに、ウールの敷物はそれらをキャッチし、
再び舞い上がらないようになるのです。
題名は失念してしまいましたが、以前読んだ本で(確かシュタイナー教育の本)、ドイツの幼稚園では、教室に手織りのラグを積極的に取り入れており、その効用として、「豊かな色彩や手織りの温かみによって豊かな感性を磨くことができる」以外に、「埃やにおいを吸着することによって、空気をきれいに保つことができる」
という記載を見かけました。
家族の健康を陰ながら支えるお供ととしても、キリムや絨毯がお役に立てれば幸いです。
機能的
ウールは繊維が中空で湿気を取り込んだりはきだしたりして適切な湿度を保っている。吸湿性があり、静電気が起こりにくい。
ウールの表面はエピキューティクルという薄い膜と脂分があるので水や汚れを弾く。撥水性に優れている。
ウールは表面の縮れ(クリンプ)によって繊維が絡み合い、空気の層ができて外気を遮断するので、暖房時でも冷房時でも温度を保つことがで
きる保温性の高い素材。
ウールの主成分はたんぱく質なので、土に還ることができる。実際肥料としてや保温のために使っているところもあるらしい...
自然と人間によって生み出された羊毛は何千年も使われてきた安心安全な素材である。
化学繊維(ナイロン・アクリル・ポリエステル・ポリプロピレン)に比べると。熱に対して強い。発火温度にはあまり差がないが、炭になり燃え広がる可能性が低い。また、化学繊維は発火する前に繊維自体が溶けてしまい、修復が不可能となる)
ウールは湿気を含んでいるので静電気が起きにくく埃がたたない。
また、表面のクリンプが埃などの汚れをキャッチし、舞い上がるのを防ぐので部屋が汚れにくい。
ラグに使われる羊毛について
イランでは未だに絨毯やキリムが多くの家庭で織られ、使われています。
その理由はいくつか挙げられますが、
一つにはイランでとれる羊の毛が絨毯にとって適しているということがあります。
羊は性格がおとなしく、繁殖が容易であったことから、
世界各地で飼われるようになり、食料、衣類、住居など、人間の生活全般を賄うものとして、大切に扱われてきました。
特に西アジアや中央アジアの乾燥地帯では農業ではなく、狩猟が主な生活源でしたから、元々乾燥に強くて丈夫な羊は彼らの生活を全般に渡って支えました。
そして、何世紀にも渡って遊牧民は生活スタイルに合った毛質の羊を選び繁殖させ、特に床に敷く絨毯やテント生活を守る住居の素材として大いに活用しました。
そのため、踏んだり押しつけたりしたときの回復力が高く、擦れにも強い毛質が求められたのです。
一方、別の土地、例えばヨーロッパやオセアニアなどでは、衣服として多く用いられたきたので、もっと柔らかく比較的脂分の少ない毛質の羊に改良されることになります。(例えば私たちがセーターなどで着ているメリノ種はスペインで生み出されました。細く柔らかい上に下毛がないことから、大変重宝がられていますが、これも改良に改良を重ねた結果生み出されたものなのです。)
羊は一説には3000種類以上あると言われているようですが、
つまるところ、気候風土や用途によってその土地の数だけ種類があるといっても良いのかもしれません。
自分を自然の脅威から身を守るたいえその土地に住み、その土地の気候風土に適応してきた羊から生み出された毛糸がそこでの暮らしに最適な素材となるのは当然のことですね。
気候
風土
用途に
合った品種
また、羊は部位によっても生えている毛質が違います。
犬などもそうですが、一番柔らかいところは肩のあたり、次にサイド、次に背中、最後がお腹周りの順となります。ですので、羊の毛を刈る時に部位ごとに分けてまとめ、糸を紡いだり、フェルトにするのです。
ちなみに、羊毛は遊牧民の大切な収入源にもなりますので、柔らかい肩周りの毛は市場に出され、自分たちが使うことはあまりないようです。
部位による
使い分け
もう一つ、季節によって毛が生え変わるという特徴も持っています。
当然ですが、冬の毛は保温性に優れしっとり柔らかく、夏の毛は透湿性があってさらっとした手触りを感じます。(ただし、肉が主な用途の羊は年一回しか生え変わらない品種が多いのだそうです。)
このように、織り手は羊から取れるさまざまな毛質の糸を良い具合にブレンドして、糸を紡ぎ、絨毯やキリムを織っていきます。
夏の毛と 冬の毛